柔軟な対応で力強い会社に!中小企業が知っておくべき「労働時間制」とは

👉ココがポイント!

労働時間の原則「法定労働時間」とは?
人件費の最適化、人材の確保……柔軟な労働時間制が会社を強くする
変形労働時間制、フレックスタイム制、みなし労働時間制、裁量労働制……どう違う?
どの制度が適している?考え方や懸念点も知っておこう
導入ステップと成功のための秘訣

労働時間の原則「法定労働時間」とは?

基本的な労働時間制度の概要

基本となるのは「法定労働時間」です。法定労働時間は労働基準法で定められており、1日8時間、週40時間の労働時間が上限とされています。
ただし労働者数が10人未満の小規模事業所に限り、一部の業種では週44時間まで労働が認められる特例があります。これは商業や保健衛生業、接客業など特定の業種(特例事業場)に適用される規定です。

法定労働時間を超える労働が発生する場合は、必ず事前に「時間外労働協定」、通称「36(サブロク)協定」を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。

さらに、時間外労働には法的な上限が設けられており、36協定を結んで届け出たからといって、雇用者が無制限に時間外労働を強いることはできません。また、時間外労働に対しては割増賃金を支払う必要があります。

「法定労働時間」以外を採用する企業も増えている

労働基準法では法定労働時間を原則としつつも、実態に合わせた幅広い働き方を認めています。
実際に厚生労働省が令和5年(2023年)に行った調査によれば、法定労働時間以外を適用している企業は全体の半数以上となっていることがわかっています。

近年では柔軟な働き方やワークライフバランスの重要性が増しており、画一的な労働力の確保が難しくなっていることが原因であるともいえます。

柔軟な労働時間制の選択が「会社を強く」する

「法定労働時間」以外の制度を採用するメリット

まず、人件費の最適化があげられます。法定労働時間に縛られないことで、企業は労働時間やシフトを柔軟に設定でき、業務の繁閑に応じた配分が可能になります。
例えば、繁忙期には労働力を多く投入し、閑散期には勤務時間を減らすといった調整がしやすくなります。こういった運用により、人件費を無駄なく使いつつ、業務効率の向上も期待できます。

加えて人材が確保しやすくなるなどの効果も見込まれます。法定労働時間にこだわらない企業は、柔軟性を重視する求職者にとって魅力的な選択肢となります。特に「求人に対する応募が少ない」と悩む中小企業にとっては、有効な対応策の1つになり得るといえます。

在籍する従業員に関しても、働き方の自由度が高くなることでワークライフバランスが取りやすくなり、満足度の向上といったメリットもあげられます。結果的に育児・介護・趣味などを重視する従業員の離職率の低下にもつながるはずです。

変形労働時間制、フレックスタイム制、みなし労働時間制、裁量労働制……どう違う?

「柔軟な働き方」を実現するために、具体的にどのような制度があるか

大きく分類すると「変形労働時間制」と「みなし労働時間制」の2つがあり、小分類として皆さんがよく耳にするような「フレックスタイム制度」や「裁量労働制」などがあります。

変形労働時間制

企業の繁忙期と閑散期に応じて、労働時間を柔軟に調整できる制度です。
一定期間(1週間、1か月、1年)の中で労働時間を調整し、忙しい時期には1日9時間、閑散期には6時間など、労働時間を変動させ、一定期間全体で週平均40時間を超えないように調整します。

1週間単位または1か月単位の変形労働時間制:サービス業や小売業、製造業など、週または月ごとの繁閑がはっきりしている業界に適しています。
特定の期間に労働時間を長めに設定し、それ以外の時期に短くすることで、業務の波に柔軟に対応できる制度です。繁忙期に残業代を抑えつつ、効率的に労働力を活用することが可能です。なお、1週間単位の非定型的変形労働時間制は、規模30人未満の小売業、旅館、料理・飲食店の事業に限ります。

1年単位の変形労働時間制:観光業や宿泊業などの、季節による業務の繁閑がある企業に適しています。
1年間の中で忙しい時期に労働時間を増やし、閑散期に労働時間を短縮することで、年間を通じて効率的な従業員の配置が可能になります。この制度を活用することで、シーズンごとに大幅な残業を避けつつ、年間の労働時間を調整することができます。

みなし労働時間制

実働時間ではなく、事前に定めたみなし労働時間を基に労働時間をカウントする制度です。
始業・終業時刻や労働時間を定めず、労働者に委ねたうえで運用するのが一般的です。みなし労働時間制の小さく分類して以下の3制度があります。

事業場外で業務を行い、労働時間の算定が難しい場合に適用されます。例えば、外回り営業などを行う従業員など、実際の労働時間を把握するのが難しい職種に利用されます。

フレックスタイム制

子育てや介護などで稼働時間が流動的になりがちな従業員が多い企業に適しています。
従業員が自分で出勤・退勤の時間を決定できる制度で、分類としては変形労働時間制の1つです。通常、コアタイム(出勤しなければならない時間)とフレキシブルタイム(自由に働く時間)に分かれていますが、近年ではコアタイムなしの「スーパーフレックス」と呼ばれる制度を導入する企業も増えてきました。

フレックスタイム制の利点は、従業員が自分のライフスタイルに合わせて働けることです。例えば育児や介護をしながら働く従業員にとって、時間の融通が利くフレックスタイム制は非常に魅力的です。また、そういった従業員が多い場合は、企業にとってのパフォーマンスを最大化できる点もメリットといえます。

裁量労働制

専門業務型裁量労働制

成果物や業務の進捗に基づいて評価される職種に適用されます。
例えばプログラマーやデザイナー、研究職など、業務の性質上、遂行の手段や時間配分の決定などに関して、使用者から具体的な指示をすることが困難なものとして定められた20の業務に限られています。

企画業務型裁量労働制

事業の運営に関する事項についての企画・立案・調査や、分析の業務が対象となります。
例えば経営企画を担当する部署で、会社の経営状態や経営環境について調査・分析を行い、経営に関する計画を策定する業務などが適用対象です。

どの制度が適しているかを考える

結論から言うと、 「この会社には必ずこの制度が適切だ」といった具体的な指標はありません。

繁閑のある小売業や製造業には変形労働時間制、IT業界やクリエイティブ業界などは裁量労働制が適している可能性が高いですが、業務の指示系統の違いや導入しているシステムなどの細かな状況によって適切な制度が変わってきます。

自社の業務形態を見直し、従業員のパフォーマンスが落ちる制度になっていないかを確認してから、どの制度を選ぶべきかを柔軟に検討する必要があります。

各制度の導入によって考えられる懸念点

労働時間の自由度が高くなることで、  従業員自身の自己管理ががうまくできない可能性があります。これにより、必要以上に長時間働いてしまう、あるいは逆に業務に支障をきたすほどに労働時間が不足する、といった問題が発生するリスクがあります。

また、組織全体のつながりやコミュニケーションが希薄になる点にも注意が必要です。
例えば、リモートワークやフレックスタイム制を導入することで、従業員が異なる時間帯や場所で働くことが増え、対面でのコミュニケーションが減少することがあります。
結果として、従業員同士の親近感や組織文化の維持が難しくなる可能性もあるので注意が必要です。どの制度を導入するにしても、適切な管理と計画が欠かせません。

導入の流れと成功のための秘訣

労働時間制度を導入する際は、必要に応じて就業規則の見直し、労使協定の締結、労働基準監督署への届け出、労働時間の管理、従業員への周知など、複数の段階を踏む必要があります。また、労使協定や労使委員会の決議内容は、従業員全員に周知しなければなりません。

スムーズな制度の導入には従業員への周知徹底と、制度運用に伴う管理体制の整備を行い、併せて制度を導入する前にシミュレーションを行うのも効果的です。
例えば、一部の部署や特定の社員にテスト導入し、問題点を洗い出すことで、全社導入時のトラブルを避けられます。そういった判断に対して、社労士などの専門家に相談することも1つの手でしょう。

中小企業にとって、従業員の労働時間管理が複雑化することは、導入のハードルが高くなると感じますが、長期的な視点で見るとさまざまなメリットがあり、結果として企業競争力の向上につながります。まずは各労働時間制度を知ることから始め、会社の未来のために自社の働き方を見つめなおしてみてはいかがでしょうか。

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